名古屋大学大学院
医学系研究科
分子細胞免疫学 教授 西川 博嘉
「ほかの人がしないことをやりたい」。若い時からそんなことをぼんやり思っていたかもしれません。子どもの疾患に興味があった研修医時代は、皆がやる同じ医局の中での修練の代わりに、子どもが生まれる前後から見たい、周産期も学びたいと考えました。最初に産婦人科で研修し、その後小児科のICU、そして最後に小児外科に戻ってきました。今思えば少し生意気だったかもしれませんが、盲目的に言われたことだけをやるのは抵抗がありました。当時面倒を見てくださった先生が、いつも「やってもいいよ」と言ってくださったんです。すごく感謝しています。結局研究の道に進んだのも、周産期を学んだ研修医時代に「発生学」に興味を持ったからでした。細胞が分化する過程を見て、臨床医として疾患を持つ子どもを見るより、もっと前の段階から関わっていくほうが、自分のやりたい「子どもを救う」ことにつながるのではないかと考えました。
研究は、失敗の連続。100回に1回成功すればいいほうだと、いまだに思っています。これまでの発見ですごく心に残っている場面があります。大学院の夏のお盆休みの頃でした。ある結果を待って写真を現像し、暗室でひとりドキドキしていたんです。待ち望んでいた分子が写真に映っているかもしれないと、祈るような気持ちでいました。結果は、映っていた。喜び勇んで教授に電話をかけたのを覚えています。シーンと静まり返った研究室の中で、ひとり興奮していました。それ以来、人が遊んでいるときに働けば、いい結果が出るんじゃないかと思うようになりましたね(笑)。運も実力のうちという言葉がありますが、ドキドキしたり心配しながらも、粘り強くやってみることで運を引き寄せることができるのだと思います。
いまは、がんや神経を主なテーマとして研究に取り組んでいます。細胞の中のひとつの分子にも様々な機能があることが分かっているため、それぞれの機能を明らかにすることを目指しています。研究室のメンバーには、データをとることはとても貴重な作業。でも、それを一人で抱え込むのではなく、シェアし合えることが研究者としては大事だと伝えています。シェアすることで自分の研究をより多くの研究者に知られることになる。自分のオリジナルを真似されると心配するよりも、多くの人に知ってもらうことで自分にもお返しが返ってくると、ポジティブに考えたほうがいいと思っています。自分が取り組んでいる研究を知られれば、それだけ有益な情報が集まってくる。それが新しい真実の発見に繋がったら「あいつの言うことは正しかった」と思ってもらえる。研究者に必要な素質って、柔軟性と根気だと思います。
研究者は発見したいという欲求のもとで日々を過ごしています。チャンスが来るタイミングをいつも意識しているんです。こんなワクワクする研究を経験しないのはもったいない。特に、若い時にピュアサイエンスに向き合う経験をすることがおススメです。心がまっさらである分、より価値のある発見や疑問に出会える。自分の気持ちに素直になって積極的に研究をしてほしいと思います。研究は臨床と同じくらい大切です。